はいみどりの世界

すてきな記憶を忘れないために

甘城ブリリアントパーク(1)(位置モデルの特定について)

甘城ブリリアントパークは、京都アニメーションの2014年秋のアニメです。遊園地を題材にした作品ですが、題名からも東京都の多摩地方の稲城市辺りが舞台であり、よみうりランドがその候補地であると筆者を含め大方の人が想像していたようです。

 

f:id:haimidori:20200501010552j:plainよみうりランドの観覧車(参考)

京アニとしては久しぶりに関東が舞台のアニメであり、筆者もその舞台をいち早く訪れてみたいと期待していました。今回、筆者はこの舞台、特に遊園地の位置モデルとしての最寄りバス停(作中では「西太丸」バス停)の特定までの過程を記事にしてみることにしました。この位置を特定するという作業は、多くの先達者にとっては至極当たり前のことであり、今回の内容も難易度は初心者レベルのものですが、その過程を知っていただくことで舞台を特定することへの理解への一助になればと思います。

(以下、ネタバレを含みます)
第1話の放送では稲城駅をもじった甘城駅の看板、さらに、駅前のバス停では京王バスのデザインに似たバス、さらにKEIOをもじったKAIOの文字など、予想どおり、京王相模線稲城駅が起点になりました。

 

f:id:haimidori:20200501010611j:plain甘城駅(稲城駅)前から可児江西也と千斗いすずがブリリアントパークの最寄りのバス停まで移動するシーンが出て来ましたので、まずは、そのバスに乗って目的地のバス停まで行ってみたいと思いましたが、調べてみると1時間以上も運転間隔があったりして時間調整が難しいようです。

 

f:id:haimidori:20200501010633j:plain

稲城駅前のバス乗り場

作中では、「甘城ブリリアントパーク」とその次の「西太丸」というバス停が出て来ます。この「西太丸」がこの遊園地の最寄りのバス停という設定です。

 

f:id:haimidori:20200501010700j:plain京王バス路線図(24頁もある優れもの、晴海のバスまつりで頂きました)

これ以外のバス停の名前は、京王バスの稲22系統の実在のバス停のもじりであることが京王バスの路線図からすぐわかったので、そこに存在しないバス停名のこの2つの場所がどの辺かをまずは考えることにしました。

 

f:id:haimidori:20200501010716j:plain京王バス路線図の17頁より

稲22系統のバスがどこを走っているのかを東京都の道路地図(1万分の1くらいが良い)を元に辿って行きます。すると、バス停の看板に書いてあった「甘城市立病院」の元になる「稲城市立病院」というバス停がみつかります。その病院の面している通りは都道41号(通称:川崎街道)であり、その病院の住所は「大丸」という町名であることがわかります。
「太丸」が大丸のもじりであることが想像できますので、この大丸の「稲城市立病院」というバス停の西に「甘城ブリリアントパーク」とその次の「西太丸」というバス停があると想像されます。そして、さらにその先のバス停は、作中では「運転寺坂」とありますが、これは、実際の「連光寺坂」というバス停に相当することがやはりその名前からわかります。
という訳で、「稲城市立病院」と「連光寺坂」のあいだに、この2つのバス停が存在するはずですが、実際には「桜ヶ丘カントリークラブ」というバス停が1つあるだけです。
ここまでは、道路地図や路線図などでわかりましたが、この「桜ヶ丘カントリークラブ」というバス停が「甘城ブリリアントパーク」か「西太丸」のどちらかに当たるバス停なのか、それとも別の場所になるのかを判断しなければなりません。
第1話では、甘城駅からバスに乗って「西太丸」で降りて、横断歩道を渡り右手の方向へ行くと、遊園地の入り口があるということが判るのですが、この横断歩道を渡る際に中央分離帯のようなものの近くに橙色の警告灯らしきものが見えます。これは場所の特定につながるヒントです。また、中央分離帯らしいものがあるということもヒントになります。
今度は、この都道41号線の風景がどのようなものかを見るために、グーグルストリートビュー(GSV)を使います。稲城市民病院の場所を検索し、そこからこのGSVで都道41号線を西に辿って行きます。この道には作中のように中央分離帯がありますし、どんどん辿っていくと桜ヶ丘カントリークラブのバス停、そして、連光寺坂交差点に辿り着きます。この連光寺坂交差点には先ほどの警告灯がありました。

 

f:id:haimidori:20200501010752j:plain連光寺坂交差点(南側から)

ここで、バス停辺りの風景を見ますがはっきりしません。作中では、バス停前のフェンスが全て描かれていませんし、バス停の前にバスベイという道路の切り込みがあるのがわかりますが、GSVでは無さそうに見えます。
また、バス停の手前(稲城方)には横断歩道はありません。

 

f:id:haimidori:20200501010820j:plain桜ヶ丘カントリークラブバス停(聖蹟桜ヶ丘駅方面)

これだけを見ると、この「桜ヶ丘カントリークラブ」バス停は違うのかなと思ってしまいます。

*バスベイについての資料はこちら

さて、第2話では西也が遊園地を出て、右側の方向にある帰途としてのバス停へ行くシーンがあります。

 

f:id:haimidori:20200501010844j:plain桜ヶ丘カントリークラブバス停(稲城駅方面)

このバス停は、甘城駅から遊園地へ来るときに、この「西太丸」で降りたところのバス停とは道をはさんで向かい側のようです(第1話で見えていた横断歩道や警告灯が見えている)。ここで、来栖隆也がこのバス停のバスベイの右端にいるのですが、隆也のアップのカットでは、背景に行き先表示板がかすかに映っています。文字は全く判読できませんが、まっすぐな道、さらに斜め左上方への分岐、情報には2文字ずつの行き先らしきものが2個、そして、この行き先表示板の左側には、白い看板らしきものがあります。

 

f:id:haimidori:20200501010904j:plain実際の行き先表示板

さらに、引きの映像では、この行き先表示板の左側にしろい建物がありますが、この建物の左側が四角い塔のようなかたちをしていて特徴があります。
ここで、再度、GSVの登場です。この「桜ヶ丘カントリークラブ」バス停の辺りを確認すると、この行き先表示板と似たものがありました。そしてその手前には、この特徴のある白い建物があります。地図で確認すると、「連光寺ポンプ場」のようです。

 

f:id:haimidori:20200501010926j:plain実際の連光寺ポンプ場と行き先表示板の風景

では、ここでこれらの位置関係を整理してみます。

 

 

f:id:haimidori:20200501010945p:plain

図のように、行き先表示板とバス停の位置関係から、作中のバス停の位置は実際のバス停より東側にあることになります。また、横断歩道もバス停のさらに東側ということになります。したがって、遊園地の入り口の場所は、実際の稲城駅行きの「桜ヶ丘カントリークラブ」バス停(地図B)の東側50mくらいの位置になります。

 

f:id:haimidori:20200501011014j:plain遊園地の位置モデルの風景(画面の歩道の奥の辺り)

以上のように、現実のバス停のかたちや近くの交差点をモチーフにしながら作画されたことがわかります。京都アニメーション作品は、現実の風景のパーツを出来る限り忠実に用いるというのが特徴ですが、このような架空の施設の場合には、それを現実の場所にうまく溶け込ませるため少し位置関係なども改変したりすることもあります。

今回のバス停、遊園地の位置などの特定は比較的簡単な部類だと思いますが、ほとんどヒントのない背景も多く、それもあってか、舞台を特定することに情熱を燃やす方々がいることも事実です。それも1つのアニメの楽しみ方だと思います。正直、本当にわずかのヒントから場所を特定される方々にはただ驚嘆の一語です。
筆者は、舞台の位置がわかったうえで、そこへ訪れて、アニメの仮想空間と現実空間のあいだに想いを馳せるのが好きです。それを聖地巡礼という言葉で一括りにするというのは何かしっくり来ないと常々感じています。
例えば、今回のこのバス停には特に特徴もなく、あの角の取れたかわいいベンチもありません。したがって、いわゆる巡礼者が訪れても何も得るものがないと思います。このような場所へ訪れることを聖地巡礼と呼ぶには無理がありそうです。
一方、舞台の位置特定に重きを置くのは筆者の楽しみ方とは少し違っています。通常の舞台探訪の定義は、特定するだけでなく実際に舞台に訪れて、アニメと同様にそのカットをフレームを合わせて撮ることで完了するらしいのですが、そのカットを撮るまでで終わりというのももったいないと思っています。
舞台探訪はいい言葉だと思っています。上記のような狭義の舞台の特定(実際に現地で写真に撮ることも含む)という意味だけではなく、舞台に実際に訪れて、その場所からしか得られない何らかの舞台の雰囲気を楽しむことも含めて舞台探訪と呼んでみたいと筆者は思っています。筆者は現地へ行くことで新たな発見があったりすることが多いです。舞台の場所に実際に訪れて、その背景(見えているもの、見えていないもの、見えない背景もすべて)を感じることも舞台探訪と勝手に定義しています。(これにぴったりな言葉があればいいのですが)
今回は、特定作業としては、結果として机上で全てできてしまったのですが、実際に確かめる(感じる、何かを発見する)ために現地へ行きました。そこには少し壊れかけたバス停の標識や、ずっと壊れたままで使っていないベンチがあったりして、甘ブリの寂れた遊園地という設定を少し理解できたような気がしました。その場所も最寄り駅から遠く、バスの本数も本当に少なく、不便であることなどが作中の設定にあっていることも実感としてわかりました。こういうところを直に感じることができ、登場人物の気持ちがわかるのが楽しいのかもしれませんね。

 

f:id:haimidori:20200501011049j:plain桜ヶ丘カントリークラブバス停(地図C) :永山駅発の桜06系

バス停の前のフェンスのデザインも、東京都のシンボルのイチョウの葉のかたちをもじったものであることもわかりました。
ちなみに、筆者は稲22系統にまだ乗車していません。現地には、京王永山駅前から桜06系統で上記写真の桜ヶ丘カントリークラブバス停(地図C)で下車しました。帰りは、同じバス停から、今度は聖蹟桜ヶ丘駅終点まで乗車しました。この系統は15分間隔で運行されているので、現地へは行き易いです。もちろん、時間の余裕があったら、一度は稲城駅から稲22系統に乗ってみたいと思っています。

*記事中の画像はすべて筆者が撮影したものであり、GSVの画像ではありません。
*画像をクリック(タップ)すると拡大します。(さらに再度クリック(タップ)すると鮮明になるようです)
(2014年10月11日、12日撮影)