はいみどりの世界

すてきな記憶を忘れないために

たまこまーけっと(12)(コーヒーカップの謎:その4:ソーサーを探せ)

中尾山編
2014年4月30日
昼下がり
陶器まつりの三喜工房さんのお店の方に早速、声を掛けてみた。

 

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「このラクダの絵が描かれたもの、いろんな種類あるんですね」
「そうなんですぅー」
お店番をされてた方は若い女性で、語尾に特徴があった。地元の抑揚なんだろうか。
(以下、語尾の抑揚は省略します)
「でも、いまはもう作ってないんです」
といいながら、展示台の下にあった2つ重なったトレイを引っ張り出した。

 

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その中には展示台の上にある湯のみ茶碗などが、一杯入っていた。手に取ってよく見てみたが、展示台の上にあるものと同じ種類のものだけだった。
「これで全部ですか」
「はい、そうなんです」
と申し訳なさそうに答えられる。
「他にも種類あったんですよね」
「はい、もっといろんな種類があったんですが、いまはここにあるのだけなんです」
気になっていた新たにネットで見つけたソーサーのことを訊いてみる。
「お皿もありましたよね」
「はい、ありましたが、いまはここにあるものだけなんです」
展示台の上には数枚重なったお皿があった。
数日前に買ったコーヒーカップの対になっているソーサーより若干小振りに見えたそれを手に取って、
「この縁のところが、立ったものってありましたか?」
「よく覚えてないんですが、あったかもしれませんねぇー」
縁の所が立っているソーサー、いや、”ただの皿”はやはり無いようだ。

 

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この画像は家にあった似た感じの皿にコーヒーカップを載せたもの。
このように縁が立っていて、大きさもこのくらいのものが、アニメに描かれている。
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10日程前に田淵さんに電話したときに、ネットで発見したコーヒーカップとソーサーの画像をメールで送信して見て頂いたのですが、その返信文には、
「これはソーサーではなく"ただの皿"です。本当のソーサーではありませんよ」
目が点になりました。
このソーサー、いや、"ただの皿"はもうないですかと念を押したがないとのこと。
でも、もしあったら、すぐご連絡をお願いします。とダメを押す。
さらに、「カタログとか、写真とかないんでしょうか?」と訊いてみた。
田淵さん曰く、以前、カタログ作ろうとして、MacintoshMacではない)で画像を加工したりしてたんですけど、パソコンが飛んだりして全部パアになったので、結局、作らなかったんです、とのこと。
(☆1990年頃、まさにこのコーヒーカップを作り始めた頃のパソコンはまだまだ発展途上でリアルな画像を扱えるMacintoshは魅力的ではあったが、メモリの搭載量も少なくすごく不安定であった)
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今回、現地(波佐見町)までやって来たのは、このソーサーに似た皿のようなもの、あるいは、ラクダの絵が描かれていなくても同じ形の皿がないかを確かめるのが目的だった。
「他に皿はないでしょうか?」
「はい、これ以外はないですねぇー」
再び、申し訳なさそうに仰られる。
ふと目に留まった醤油差しのようなものの受け皿、直径5cmくらいのものを手に取って
「こんな形のもう少し大きいものなんですけど。」
「ないですねぇー」
やはり無い。
いくつか、ラクダ柄の湯のみ茶碗を買い求めた。
「これからどうされるんですか?」
「中尾山に行ってみようと思います」
中尾山という場所にこの三喜工房さんの窯(かま:窯跡かも)とご自宅があることを予め調べていたので、少し遠いみたいだけど、まだ時間があるので、やはりそこへも行くことにする。
「行き方わかりますか?」と訊かれて、まあなんとかなると思いますと答えましたが、いろいろ丁寧に道順を教えていただいて、会場を後にしました。
会場近くの交通整理をされている高校生らしき人に中尾山までどのくらいかかるかを更に訊いてみると30分くらいかなと自信なさげに答えてくれた。
まあ、なんとか行けるだろうとタカをくくっていたのですが…

 

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会場からそう遠くない岐かれ道のところに中尾山のモニュメントがあり、この道をひたすら緩い登り坂を歩いていくことに。
(途中の道すがらのことは省略します)

 

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40分くらい歩いて、ようやく中尾山の入り口のゲートが見えてきました。

 

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山あいの街という印象。レンガ作りの煙突が至るところにあって、風情を感じます。

 

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煙突のてっぺんにはなぜか木が生えています。おそらく、もう使っていない煙突なんだろうと。

GPSを頼りに狭い路地を進むと右手に三喜工房の小さな看板がありましたが、網が架けられていたり、トレイが山積みになっていて野菜売り場みたいでした。やっぱり、陶器は売っていないようです。
辺りを見回しましたが工房らしきものはなく、10年以上前に陶器の製造をやめてしまったことの年月を感じました。
他の工房は今でも製造されているところもそこそこあるみたいで、近くには結構大きな建物もあったりしました。想像よりずっと多くの窯があるように窺えます。

 

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三喜工房さんの辺りから、街の真ん中を貫く道へ戻って歩いていくと登り坂が段々と急になってきましたが、街をひと当たり見てみようとこの川沿いの道をどんどん登っていきました。

 

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でも、開いてるお店はありませんでした。街の中心辺りで、地図を確認して、街の一番上まで行ってみようとさらに坂道を登っていきました。後ろを振り返ると遠くの景色がよく見えるところまでたどり着いたようです。

 

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そして、そこに中尾山交流館を見つけ、入ってみることに。ここまでたっぷり1時間はかかってしまいました。
玄関を入ると、ピンポーンという自動検知のチャイムの音が鳴り、吹き抜けの玄関ホールの上から覗き込むように年配の女性の方が「どうぞ」と仰られた。
靴を脱いで、スリッパに履き替えて2階へ上がる。そこには、こじんまりとした展示スペースが。150cmくらいの幅のそれぞれのスペースに各作家(工房)ごとの作品が並んでいました。女性にどこから来たんですかと訊かれたので、今朝、神奈川県の自宅を出てきたことを答えました。
「三喜工房さんの物ってありますか?」と一縷の望みを賭けて訊ねてみると、
「ありますよ、こちらです」
そのスペースには昼に見た例のラクダの描かれたあのデザインのものはありませんでした。
「他にはないですか」と訊ねると展示棚の下のトレイを見せてくれましたが、そこには、ラクダ柄の急須と土瓶がわずか2個あっただけでした。
例のソーサー、いや、”ただの皿”は残念ながらありませんでした。
この交流館の女性の方は色々ご存知な様子だったので、三喜工房について訊ねてみました。
三喜工房さんは、随分前に製造をやめられて、名前だけを別の方にお譲りになられたとのこと。これがHPで見つけた三喜工房(新)のことだと思った。作風の異なるものがこのスペースに多く並んでいたので、この中で、元々の三喜工房さんがお作りになられたものはどれですかと訊ねたら、「うさぎ柄のものとか、かわいいものがそれですね。」と教えてくれた。

 

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それらの器の裏側の銘の部分を見るとどれも"喜"(略字体で)の文字がある。
「これも田淵さんの作られたものですか?」と訊ねたら、そうですとのこと。
その中でも、気になった器がこれ。

 

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凄く細かい模様が描かれている直径5cmくらいの小さな湯のみ茶碗。
他にも同じものがあったので、見比べてみると少し絵柄が異なっている。
「これは手書きですか?」
「転写で作るものもあるみたいですけど、これは手書きですね」
凄く何か素敵なデザインで色味としても惹かれるものがあり、気に入ってしまった。
しかし、この大きさにしてはいいお値段(高い)だった。
この茶碗を買って帰るかひとしきり考えたが、ここまで(陶器まつりの会場から)1時間も掛けて歩いてきたし、やはり記念に買って帰ることにした。

会計を済ませながら、「ここはいいところですね」とつぶやく。
本当に静かないい街だと感じていた。
「帰りも歩かれるんですよね」
「はい」
「私は、下の街まで毎日歩いて通学してたんですよ」
来る途中に高校生に訊ねたときに30分くらいと自信なさげに答えてくれたのを思い出して、最近の人は実際歩いたことはほとんどないんだろうと気が付いた。昔の人はすごいなと改めて思いました。
「雨降らないといいですね」と声を掛けられて、「はい、大丈夫です、きっと」と答えお店を出ると、いきなり、小雨が降ってきた。
少し濡れたけど、濡れながら歩いても構わないいい気分だったので、そのまま傘を差さず帰りの坂道をずんずん降りて行く。街の入り口まで来たところで雨もいつの間にか上がり、あとはひたすら歩くだけ。
帰り道、"あのお店の方"にもお土産として買って帰ろうと考えながら...

帰りは下りなので結構早く先ほどの会場に到着。遅い昼食に出店の五島うどんを食べる。もう3時を過ぎていた。会場を一渡り見てから、三喜工房さんへ再び顔を出す。
中尾山へ行ってきたことを告げた。そして交流館で買ったお茶碗のことを話しながら、何気に辺りをみると、その先ほど中尾山で買ったお茶碗もある。値段をみると、随分安い。えー、そんなあ...

お店の人にこのことを言うと、お土産用に追加で買うことにしたお茶碗をさらに値引きしてくれました。
「本当に申し訳ないですぅー」また、例の話し方で言われた。
こちらこそ、いろいろありがとうございました。
波佐見町まで大変だったけど来てよかったと思った。
にしても、この店員さんタダモノではない。

(2014年4月30日撮影)
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(☆ちなみに、交流館で販売してたのは、程度の良いものだったようで、この陶器まつりの会場で買った同じ柄の少し大きな湯飲みと比べると細かいへこみもなく、色味も模様も奇麗なものでした。)
(☆この小さな湯のみ茶碗は、1日に5個しか作れなかったと店員さんから会計後に聞いて、すごく感心してしまいました。1個の絵付けに1時間半ということになりますね)

  5.京都編たまこまーけっと(13)(コーヒーカップの謎:その5:あのカウンター席で)に続く

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