はいみどりの世界

すてきな記憶を忘れないために

境界の彼方(新堂写真館(世田谷邪宗門)へ行ってきた : その4)

第5話で登場した、このシーンの件です。

 

f:id:haimidori:20200430175251j:plainこれは、七宝焼(しっぽうやき)だそうです。絵画ではありません。
これは、お店のとんぼの暖簾を入った奥の部屋に飾られています。
大きさは、1m四方かそれ以上あります。随分と大きな作品です。
この第5話は、「萌黄の灯」という題名が付いていますが、ランプだけでなく、この作品の黄緑色が印象的です。
この作品は、店主の奥様(以下、ママと呼びます)が製作されたものです。この作品の色違いのもの(白いもの)がフランスの七宝焼などを展示する展覧会に出品され入賞されたそうです。(38年前)

 

f:id:haimidori:20200430175316j:plain1975年7月8日の日付の入った入賞の賞状(実物を見せていただきました。恐縮しております)

この賞状には、以下のように記されています。
-------------------------------------
LIMOGES
リモージュ
CAPITALES DES ARTS DU FEU
炎の芸術の都市

Troisieme Biennale Internationale
第3回ビエンナーレ国際(展覧会)
L'ART DE L'EMAIL
七宝焼の作品(部門)

Sous le Haut Patronage de
後援の元に
Monsieur Jacques CHIRAC, Premier Ministre
ムッシュ ジャック・シラク首相
Monsieur Michel GUY, Secretaire d'Etat a la Culture
ムッシュ ミシェル・グイ 文化省長官
Monsieur Vincent ANQUER, Ministre du Commerce et de l'Artisanat
ムッシュ ヴィンセント・アンカー 工芸商業観光大臣

M Sakumichi Kikue
(作道貴久枝殿)
Le Maire de Limoges
リモージュ市長)
8 juillet 1975
(サイン)

(印の文字)
(V)ILLE DE LIMOGES
リモージュ
HAUTE-VIENNE
上ヴィエーヌ(県)

Le President du Comite
展示会の委員長
8 juillet 1975
(サイン)
-------------------------------------
慣れないフランス語を訳すのに手間取りましたが、間違いはないと思います。
当時、首相だった後のシラク大統領の名前がありますね。シラクさんは相撲好きで有名ですね。
もう1つ証明書を見せていただいたのですが、こちらはデンマーク語でさらに手間取りました。
こちらもなんとか訳すことができたのですが、デンマークの首都の展示施設で展示する旨のことが記載されていました。
さて、フランスのリモージュという都市ですが、「リモージュ焼き」と言えば、七宝焼のことを指すらしく、七宝焼の元祖(本家)とも言うべき街だそうです。ちなみに、七宝焼のことをフランス語ではエマイユ(Email)と呼ぶようですが、綴りが電子メールと同じというのがちょっと面白いですね。

この作品には、篆書での4文字が読み取れます。「億年無疆」と書かれています。「ずっと問題なく続く」という意味です。この文字は中国の建物(寺院など)の丸瓦の先端部分によく書かれているものだそうで、このような言葉を書くことで、建物が災害などに遭わず長く保たれることを願うまじないの意味があるようです。

 

f:id:haimidori:20200430175416j:plain

これは、筆者が唐招提寺へ行ったときに撮影した丸瓦です。
丸瓦の先端に唐招提寺と書かれています。まじないの言葉などは書かれていません。
瓦は、平たい瓦を敷き詰めて、そのつなぎ目に丸い瓦を置いて、雨漏りを防ぐ構造になっています。昔の建築(城や寺院など)はだいたいこういう構造だったようです。
この作品は文字にも迫力がありますが、この文字自身もママが揮毫されたとのことです。

 

f:id:haimidori:20200430175445j:plainこれもママの七宝焼の作品です。
七宝焼は、金属板(多くは銅板)の上に釉薬(ゆうやく、うわぐすり)をかけて焼成し、それに含まれる金属成分が様々な色を作り出し、さらにガラス質が光沢感、透明感を醸し出すようです。身近な七宝焼の例には、社員バッジや学生の襟章などがありますね。
この作品もそうなのですが、大きなものはあまり例がないようで、その製作には重さとか、いろいろ苦労が伴うようです。

七宝焼以外にも、ママの創作意欲は発揮され、木芸(木工芸)という分野の作品もお店には飾られています。

 

f:id:haimidori:20200430175526j:plainこれは、ひもネクタイ止めのようですが、この絵は、1つ1つが1ミリ程度の木片でできています。

 

f:id:haimidori:20200430175601j:plainこの木片には木材の種類が異なるものをいろいろ使うことで、色の効果を出しています。木片に着色などは一切していないそうです。この精緻さには驚きです。
お店の中には、額に入った木芸の作品があります。本当に近寄って見ても、それが小さな木片を貼り合わせて作られているように見えないくらい緻密なものです。大変な根気を要するものだと想像に難くないです。

そして、最近は、押し花の作品を作られているそうです。
お店の中には至る所に作品が飾られています。

 

f:id:haimidori:20200430175641j:plainお店に入ったすぐのカウンターの上にあるこの苺の絵も実は押し花で作られています。
押し花は筆者も幼い頃に作ったことがありますが、色が褪せてしまうというのが難点です。この苺の赤い色はどうして保たれているのか不思議です。ママに聞いたら、材料を乾燥させるときに特別な乾燥パックを使い、また脱酸素剤などを用いることで色が保たれるそうです。また、作品ができあがったらさらに空気を遮断するようです。こうすることで、色が保たれるとのことです。
第8話で博臣や美月が座った席に座ることがあれば、その背後にある額縁をよくご覧ください。

 

f:id:haimidori:20200430175701j:plainとても押し花で作られているとは思えない美しい作品です。

ママの多芸ぶりとその完成度の高さは本当に凄いです。
お店にいらっしゃった際には、美味しいコーヒーを飲みながら、ぜひ、壁に飾られている作品にも注目してみるとよいと思います。
このお店は博物館であり、しかも美術館なんですね。

鑑賞の後は、定番(森茉莉ファンご用達)のウインナーコーヒーです。

f:id:haimidori:20200430175725j:plainこれも美味しかったです。
(2013年11月24日公開)
(2013年11月2日、2013年11月8日撮影)