はいみどりの世界

すてきな記憶を忘れないために

小淵沢報瀬の家モデル発見の経緯(昭和のくらし博物館)

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宇宙よりも遠い場所」の小淵沢報瀬の家は作中に何度か登場していますが、第9話では、報瀬の家の玄関のある側の外観が出て来ます。作画を見た時にこの建物は実在すると感じ、以来、ずっと探して来ましたが、どうしても見つかりませんでした。

館林の茂林寺駅近くの住宅地はもちろん、館林駅西口の正田醤油の正田記念館をはじめ、館林市内のいくつかの記念館、さらには、南極繋がりで、秋田県にかほ市金浦町の白瀬矗(のぶ)記念館の近傍、そして、小淵沢天文台からの連想で、長野県の野辺山天文台のある野辺山、清里、そして小淵沢駅の近くなどにも訪れてみましたが、見つかりませんでした。

 

しかし、遂にその日が訪れたのです。

週末の金曜日から海外旅行(シンガポール)に行く予定だった、そのわずか3日前の10月23日の早朝、自室でいろんな資料を積んだ本、チラシなどの束を移動させている時、抱えた資料の間から、一枚のパンフレットがするりと落ちました。それは、4年半前に訪れていた東京都大田区久が原にある「昭和のくらし博物館」のパンフレットでした。

そのパンフレットが落ちたすぐ脇に、小淵沢家の建物をいつでも確認できるようにと「宇宙よりも遠い場所ー設定資料集ー」の「報瀬の家_外観」のページをコピーしたものが、偶然にも置かれていて、この時、何気にそのコピーとこのパンフレットの写真を見比べて見ました。

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すると、

○玄関(母屋)と門が平行ではないこと(資料集に記載)

○2階の窓、ひさし、およびその窓の下部にある手摺の形

○門の扉の開口部の形状

○玄関の引き戸の下から3段までが四角い格子であること(写真の赤で囲んだ部分)

等々、ディテールが悉く一致しました。

また、設定資料集の同じページには、庭に柿の木があることが記載されていました。

ツイッターで「昭和のくらし博物館」を検索ワードで検索してみると、最近のツイートに、柿の木が写ってるものがありました。

 

この博物館は週末の3日間(金曜、土曜、日曜)だけ開館しているのですが、前述のように週末には日本にいないため、せめて外観だけでも自分の目で確認しておきたいと思い、その日の夕方、日が暮れる直前でしたが現地へ向かいました。

最初に、パンフレットの写真には写っていなかった門の脇の郵便受けと表札のある場所を確かめました。作中のような表札はありませんでしたが、郵便受けの位置、取り付けてある板塀の感じが似ていました。

この日は、開館日ではないこともあり、2階の窓の部分は雨戸が閉まっていたので、ガラス窓の部分を含めた形での外観写真を撮ることができませんでした。

 

そして、翌週の金曜日(11月2日)の開館日の閉館間際の時間にようやく訪れることができました。門をくぐり、左手の庭を見ると、そこにはたわわに実った柿の木がありました。

玄関の扉を開けて中に入ると土間の部分も心なしか作中と似ている気がしました。

室内は特に似ている場所はありませんでしたし、玄関脇に取り付けられているボール型の照明器具の位置は異なっていましたが、やはり建物の外観は報瀬の家に間違いないと感じました。

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この日は、「この世界の片隅に」の特別展(すずさんのおうち展)の初日で、庭には洗濯紐が張られて洗濯物が干されていたり、海苔の簀(す)が展示されてたり、窓には戦時中を模した窓ガラスに飛散防止のためのテープが貼られていたりと、「すずさんの家」を彷彿とさせるような色々な展示がなされていました。

閉館間際であったのと、暗くなって外観撮影も難しい状況だったので、翌日、朝一に再度訪れることにしました。

 

帰宅後、この博物館で購入した建物の資料(小泉家住宅建物調査報告書)にあった間取り図の図面と「宇宙よりも遠い場所ーファンブックー」に記載されている小淵沢家の間取り図とを比較してみました。

すると、玄関に接するいくつかの部屋、階段の位置などが、間取り図上でも一致しました。

このことから、この建物を外観だけでなく、この資料も設定スタッフが入手して参考にしたに違いないと確信しました。

 

翌日(11月3日土曜日)、再び博物館を訪れて、館内も含めて再度、入念に確認をしました。建物内には、小淵沢家に存在しているものなどは特に見つかりませんでした。ただ、建物の縁側からの庭の眺めが作中の雰囲気に似ている感じがしました。(これはあくまで、筆者の印象です)

 

11月2日から開催されている「すずさんのおうち展」ですが、建物内に置かれている「この世界の片隅に」の作中に描かれている茶箪笥(タンス)や針箱などいくつかのものは、館の所蔵物ではなく、片渕監督がこの展示のために貸し出されたものだそうです。

また、作中に描かれた当時の服などの衣装も展示(*1)されており、これらの服や小物も当時のものを再現して作成したり、あるいは実物が置かれてあったりして興味深かったです。

 

館の職員の方に、この建物がアニメ等のモデルに使われたことがあるのかを伺うと、「海街diary」(コミック)で取材を申し込まれたことが以前にあったそうです。館内は基本的に撮影不可なので、この時は館内の撮影許可を得て参考にされていたそうです。(*2)

 

この世界の片隅に」の制作においては、この建物の中の昭和の雰囲気などを参考にするために、監督、スタッフが何度も来館されたとのことです。詳しくは、この特別展の資料等をご覧頂ければと思います。(庭に面した建物の2階の展示室には、「この世界の片隅に」の原画や、今回の展示のために書き起こされたイラストなどが展示されています。こちらも撮影禁止となっています。)

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(写真は展示室内の雰囲気写真(引きの画)のみ許可されてましたので)

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 (受付棟の裏側がグッズ販売コーナーになっており、ここには今回の展示関係の説明などの資料も掲示されていますので、ぜひお立ち寄りください。ここは写真撮影OKでした)

 

この建物の外観については特に撮影許可は不要なので、「宇宙よりも遠い場所」としてこの博物館への撮影許可等の依頼は特になかったそうです。

このように入手した資料のみでの設定、作画の参考にした可能性もありますが、館の所在地は都内で、MADHOUSE本社(中野区)からも近いので、スタッフの方が訪れていたかもしれません。柿の木のことや、玄関と門が平行ではないなどの設定資料集の記述からはその可能性を感じます。

 

なお、作画には存在している切妻部分の小屋束(こやづか)(*3)は見えていません。この部分は意図的に改変したのだと思います。この部分の違いで、筆者は随分、いろんな場所を探すことになったということを付け加えておきます。

 

小淵沢家を見つけるまでの長い長い9ヶ月でした。

最後に、第9話の南極に降り立った時の報瀬の台詞を借りて今の気持ちを叫びたいです。

「ざまーみろー!、『報瀬の家』が存在したぞー!!!」(*4)

 

応援してくれた皆様、本当にありがとうございます。

コミケC95では、この小淵沢家を表紙に据えた「よりもい巡礼本」(続編)を出します。内容については改めて告知させていただきます。

 

*「小淵沢家のひみつ」(よりもい巡礼本)の紹介は、こちら

なお、現在、終売となっています。内容は、「新ペンギン饅頭号のひみつ」(よりもい巡礼本)に全て引き継がれておりますので、そちらをご覧下さい。

 

 

この「昭和のくらし博物館」は、小泉スズさんのご家族が実際に住まわれた建物で、大事な思い出がいっぱい詰まった場所です。ぜひ皆様にも、ご来館され、戦後の暖かい昭和(昭和30年代頃)の生活感を感じて頂けたらと思います。(*5)

(館内は全て「撮影禁止」になっていますのでよろしくお願いいたします)

*1:さやぶ〜さんのご協力で展示

*2:香田家のモデルになっています

*3:屋根を支える縦の柱

*4:静かに館を訪れて下さいね。決して叫んじゃだめですよ。(心の中で、ね)

*5:特別展のために現在、一部の窓には戦時中を模したガラス飛散防止用のテープが格子状に貼られています。この建物は戦後(昭和26年)に建てられたものなので、あくまで、今回の展示のためであるということです。(テープがよく見かけるX型ではなく、格子状に貼られているのは片渕監督のこだわりだそうです)

(2018年11月3日撮影)

(2018年11月8日修正)

(2022年8月11日修正)